映画レビュー「おくりびと」



【ひとこと】
 いつも いつも 想っていたよ・・・

【あらすじ】
 東京の小さな楽団でプロのチェリストとして演奏していた小林大悟(本木雅弘)は、突然の解散のために失業。手に入れたばかりの高価なチェロを手放し、実家のある山形へ、妻・美香(広末涼子)を伴って帰ることにする。「とりあえずの職」と思って、求人広告を頼りに出向いた「NKエージェント」で、妻には詳細を伝えず働き始めた大悟。そこは「納棺」を執り行う小さな会社だった。社長(山崎勉)の風変わりな言動にも慣れ、次第に納棺師の仕事に魅せられていく大悟だったが、偏見から幼馴染は冷たくなり、妻までも実家へ帰ってしまう。それでも辛抱強く仕事を続けていた大悟のもとに、ある日、父が亡くなったという知らせが届く。大悟が6歳のとき、母と幼い大悟を置いて出奔した父は、ずっと音信不通だったのに・・・・

【感想など】
 日本映画界も、こういう作品を生み出せるのか・・・・と、大変嬉しく感じました。しっかりとした構想の下、長い時間(なんと12年!)をかけて丁寧に練られたであろう脚本。いぶし銀の輝きを放つ滝田洋二郎監督の演出の冴え。がっちりと脇をかためた名優達に支えられて、主演の本木雅弘が素晴らしい熱演を見せてくれました。役者として、ここまで成長していたのかと、正直驚きを隠せませんでした。もう「モッくん」などと軽々しく呼んではいけない気がしました。『納棺夫日記』(青木新門著)に感銘を受けてから、ずっとずっと映画化を切望し、奔走した彼の、粘り勝ちでしょう。

 ともすると重苦しい話になりがちなテーマですが、軽やかな笑いを巧みに交えながら「生」と「死」を描ききった名作。この映画が世に出るためにははかりしれない時間とエネルギーと想いが必要だったはずです。ほんの小さなエピソードひとつとっても、実に奥深い。語り始めればキリがないほど。中でもラストの感動に深く結びついている「石文」が私にとっては特に印象的でした。

 父の死の知らせに大悟と美香がとある港町へ駆けつけたとき、父は汚い布団に粗末な服装で寝かされていました。所有物は段ボール箱ひとつと、旅行カバン1個。狭い部屋で、港の仕事を手伝いながら、細々と生きていた父。納棺の途中で、きつく握り締められた父の手のひらを大悟が開いたとき・・・転がり出たのは白く丸い石ころ。それこそ、幼かった大悟が父に手渡した、思い出の「石文」だったのです。

 どれほど会いたかったことでしょう。けれども、自分が裏切ったのだから、あわせる顔もないのだから、そう思って、父は死ぬまで一人暮らしの寂しさに耐えたに違いなく・・・。親が子を想う気持ち、子が親を慕う心、時や場所が違っても、決して変わらない真実が、そこにはありました。

 納棺の仕事は、死者の尊厳を守りながら、遺された者たちに温かく優しい「別れ」を経験させるものです。それは決して「汚らわしい」ものなどではなく、熟練の手業と、真摯な姿勢、冷静さと優しさ、繊細さを必要とする、気高い仕事。主人公が社長の背中から学んでいく、その過程で、今まであまりにも誤解され過ぎていた仕事なのだとよくわかります。

 社長と大悟の手によって「おくられる」人々とその遺族のなんと幸せなことか。この映画の中で、「死」は決して終わりではなく、別の世界への入口、新たな旅立ちでした。悲しく辛いはずの葬儀の場が、厳かで優しい別れの儀式の場へと変わっていきました。ラストへと続く流れがとても自然で、ひとつも無駄がなく、130分の上映時間はあっという間でした。エンディングロールの背景には、納棺を粛々と行う大悟の姿。その所作の美しさ、気配りの見事さに、「もしも自分が死んだら、こんな納棺師の方にお願いしたい。」と感じました。

 脇役の名優たちの素晴らしさも、語りつくせないのですが、あまりネタばらしし過ぎてもこれからご覧になる皆さんに申し訳ないので、「とにかくご覧になってください」と強くオススメして終わりにします。いやぁ・・・ほんとに、素晴らしかった。日本国内の映画賞を総なめにし、アカデミー賞外国語映画賞をも受賞した本作、観て損はない傑作でしたよ。

コメント

トラックバック

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。